しずかにゆくこのゆくえ

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  しずかにゆくこのゆくえ  

なれない靴。見慣れぬ私。
鏡は対面、自らの姿を映し出すもの、同時に内面を映すものだと言われている。
そこに今、私が映っている。
別段何も不思議はない。そこにあるものをありのままに映すのが、鏡なのだから。

白い机の下で、私は手を組んで、鏡を通して後ろの今の部屋を眺めていた。
私の頬にしな垂れかかっている黒い髪に、時折窓から思い出したように風が凪ぐ。
それとおそろいの私の黒い瞳は、先ほどから動かず決して何も映そうとはしない。
精巧な瓶の傍らで、真紅のように真っ赤な花が横たわっている。
机ばかりか、壁までもが白い。
花は――薔薇である。
薔薇の赤は真実の愛。私は、そんなものに私はお目にかかったことはない。
それを残念に思っているのか、そんな事はどうでもいいなどとも考えたこともない。
今、この現実を受け止めて私は進んでいくだけなのだから。
事実、そうやってしか私は生きられない。
鏡の中の私は、酷く無表情を装っていた。
そんな私を見る、もうひとりのわたしの気持ちは、私は分かっている。
無表情の裏に潜む、鋭く光るナイフを秘めた私の瞳。それは、全て映し出している。

――そうね。もしそんなものが存在するのなら、黒がいいわ。

闇にまぎれて、本当の心なんて、見ないふりをしてくれるもの。


何にも気づかないふり。そんなモノはなれっこだ。
私は、気づかないうちに薄く笑っていた。
意識を取り戻したかのように、秒針が無機質な室内を刻んでいる。
私が、世界を見失う事がある。それは儚くとも、美しくとも忌むべき事である。

私は、ゆっくり立ち上がった。着飾るは、真紅。辺りを漂うは、純白。

純白、純潔、潔白、そんなものは私は知らない。
私を纏う白はきらい。
だって、何も知らないやつみたい。

だったら、黒がいい。
何も知らなくても、知ってるふりができるから。
全てを覆い隠してくれる、神秘の甘い誘惑。何も考えなくてもいい。
考えても何も見えない。
上等だ。
全てを、きれいな部分も、きたいない部分も映し出す、しろなんて邪魔なだけ。

私は、思い出した。
ゆっくりとした動作で秒針が過ぎるのを聴いていた私は、規則的に過ぎていく時間を眺めていた。

PM:18時39分


もう、行く時間だ。

――しろはきらい。
夜が好き。くろと同じだから、かもしれない。
でも、何もかも、きらい。

ゆっくりと、私は心を静めていく。
顔をうつむかせると、視界が暗くなった。

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