そして、ここからはじまる

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  そして、ここからはじまる  

差し出したその手に、重ね合わせた両手に







「だとしたら、もう行かなくちゃ」

最後の一字一句まで、私は決して揺ぎ無い言の葉を紡いだ。
一つ一つ大事に編みこむように、空気を伝えて、心の中は、まるで雨のよう。
だとしたら、まで来て、その後どこに行けばいいのだろう、と一瞬交錯するほどに不安に駆られた。
重ね合わせて、どこか私は繋がっていたいと言う心のほのかな光を私は隠しながらだんだん明るくなってきた。

「ぼくはもう何も言わないよ」

とっくに助言はした。
深く帽子をかぶって沈黙で、閉じて私の家族にも等しいその人は私に伝えようとしていた。
何も言ってくれないようだ。
昨日そう言っていたように。
深淵の風のように、途切れませんように。それだけ昨日夜の空に願った。
眠れなかった。
気づいたら涙が出てきていて、奥の奥のほうから、宇宙のように流れてくるんだ。
痛みや、悲しみどころではなかった。
飲み込まれて、帰って来れないのかと思ったほどで、抑えても抑えても堪えきれない私の激情はそのままで消えてしまわなかった。

説明できない。
だから余計、今になって何もいえない。
風が凪いで頬を悪戯に揺らしていた。
壮大な英知をたたえる、人が無限の永遠を願う、絆は、永遠だと信じたいからこそ信じてみたいものなのかもしれない。
風の儚い調べは、目の前の私の家族が奏でてくれますように。

「……私、もういくね」

もう、振り返らない。
私の家族、家族のように振舞ってきた彼をもう一度だけ見て、私は空を背にして、背徳にして、もう振り返らない。
もう決めた。
昨日泣きながら決めた。
振り返ることに、もう私は飽きてしまった。

これでもう、最後にしたい。

もう一度、彼の黒髪を思い出して、ゆっくりと緑の草原を、私の生まれ故郷を、背後の空と大木の遥かなる守護に対して私は、最後にもう一度自分を思った。
最後に思うのは誰でもなく自分だった。
それがにんげんだから。
それを忘れたい。
歩みだしたい。

「待てよ」

掠れそうな、風に攫われそうだった声だったのだけれど、はっきり聞こえた。
本当は、ずっと待っていたのかもしれないのに。

「これが、最後だなんて思うなよ」

最後なんかじゃないから。

始まりだから。

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